「引きこもりの人は怠けているだけ」
「年齢が上がれば上がるほど、回復は難しい」
こんな言葉を聞いたことはありませんか?
実は、日本には約146万人の引きこもり当事者がいると言われています。
この数字は、内閣府の最新の調査によるものです。
今回は、14歳から31歳まで17年間引きこもり、その後社会復帰を果たして福祉施設で働くようになった50歳男性・糸井さんの実話をもとに、回復への具体的な道筋をお伝えします。
なぜ引きこもることになったのか
引きこもりの始まり:中学2年生の学力低下
糸井さんが引きこもるきっかけとなったのは、中学2年生での学力低下でした。
一見、シンプルな原因に見えますが、実はその背景には複雑な家庭環境がありました。
複雑な家庭環境の影響
- 両親の共働きで寂しい幼少期
- 父と祖母の不仲による家庭内の緊張
- 新興宗教の影響による厳しいしつけ
- 兄弟間での扱いの差
特に印象的なのは、兄弟間での扱いの違いです。
糸井さんは6畳の部屋と新しい学習机を与えられた兄弟と違い、2畳の部屋と古い机しか与えられませんでした。
また、弟は学習教材や塾に通わせてもらえましたが、糸井さんにはそういった機会はありませんでした。
このような環境の中で、自己肯定感は徐々に低下していきました。
では、実際の引きこもり生活では、どのような問題が起きたのでしょうか?
17年間の引きこもり生活で起きた変化
外見の変化
- 17年間髪を切らず膝下まで伸びた
- 歯の治療に行けず、歯がボロボロに
- 177cmで57kgまで痩せた
精神面での変化
- 強迫性障害の症状
- 被害妄想的な考え
- 自己否定感の強まり
特に注目したいのは、これらの変化が徐々に進行したという点です。
最初から極端な状態だったわけではありません。
引きこもり生活の中で、心身の健康は少しずつ、しかし確実に悪化していきました。
それでは、どのようにして17年間の引きこもり生活から抜け出すことができたのでしょうか?
回復への第一歩:31歳での転機
きっかけは異常な行動
糸井さんは31歳のとき、自分の歯形を血で染めて弁護士事務所と医療機関に送るという行動を起こします。
これが結果的に、医療機関の介入につながりました。
閉鎖病棟での変化
- 髪を自分で切る決断
- 三食きちんと食べる習慣
- 他者とのコミュニケーション
特筆すべきは、外見を整えることから始めた回復への取り組みです。
自分で髪を切る決断をしたことが、大きな転換点となりました。
回復の第一歩は、必ずしも大きな変化である必要はありません。
小さな一歩から始まることもあるのです。
では、具体的にどのようなステップで社会復帰を果たしたのでしょうか?
社会復帰への具体的なステップ
段階的な回復プロセス
- 福祉作業所での活動(34歳)
- 豆腐店での就職
- 郵便局での9年間の勤務
- 38歳で高校入学
- 41歳で大学入学
特に興味深いのは、41歳という年齢での大学進学です。
社会福祉学を学ぶことで、自身の経験を活かす道を選択しました。
年齢に関係なく、新しいことにチャレンジできる可能性は常にあります。
現在、糸井さんはどのような生活を送っているのでしょうか?
現在の活動と新たな挑戦
福祉施設での仕事
- 生活支援員として従事
- 障がいを持つ利用者のサポート
- 自身の経験を活かした支援
今後の目標
- 自費出版した本の商業出版
- 引きこもり支援活動の継続
- 講演活動を通じた啓発
特に印象的なのは、失敗を恐れない姿勢です。
糸井さんは「人生は失敗しなくちゃ面白くない」と語ります。