「ここはいいです」
日本を代表するゼネコン、清水建設がきっぱりと断った工事でした。その理由が、いま明らかになってきています。
三井住友建設が手がける「麻布台ヒルズレジデンスB」。地上64階、高さ約260メートルの日本一高いマンションが、どうして757億円という途方もない損失を生むことになったのでしょうか。
清水建設が断った"超難関工事"の全貌
このマンションには、誰も経験したことのない難しさがありました。
高速道路と地下鉄が真横を走る場所での建設。地下5階という深い基礎工事。そして、日本一の高さとなる地上64階の建物。これらすべてが重なり、通常のマンション工事とは比べものにならない難しさを持っていました。
清水建設は、この工事の難しさを見抜いていたと言われています。麻布台ヒルズプロジェクトの主要工事を担当していた清水建設ですが、このマンション工事だけは「お断り」したのです。
この難工事に飛び込んだのが三井住友建設でした。「日本一の案件」という称号への期待もあったと言われています。しかし、その決断が思わぬ結果を招くことになります。
マンション建設の難しさは、実は地面の下に隠れていました。では、なぜこれほどの損失が積み重なってしまったのでしょうか?
なぜ757億円もの損失が積み重なったのか
損失の始まりは、地下工事でした。
からにかけて、地下の状況が想定と違うことが分かり、工事の方法を大きく変更する必要が出てきました。その結果、工期が15ヶ月も遅れることになったのです。
ここで驚きの数字をご紹介します。この工事の損失額757億円は、一般的なマンション10棟分の建設費用に相当します。また、工事の請負金額(約600億円)よりも損失の方が大きいという、異常な事態となっています。
さらにには、建物の骨組み工事で図面の間違いが見つかり、すでに取り付けた部材を取り替える必要が出てきました。まさに「泣きっ面に蜂」の状態でした。
工事の遅れは、さらなる問題を引き起こすことになります。人手不足という想定外の課題が、追い打ちをかけることになったのです。
工事の遅れと人手不足が引き起こした"負の連鎖"
工事現場では、驚くべき事態が起きていました。
作業員の人件費が、当初の想定の2倍以上に膨らんだのです。なぜこんなことになったのでしょうか。
このマンション工事には、2000人以上もの作業員が必要です。これは東京ドーム半分の広さのオフィスで働く人の数に匹敵します。そして、工期の遅れを取り戻すために、短期間で大量の作業員を集める必要がありました。
特に内装工事では機械化が難しく、熟練工の手作業が欠かせません。しかし、マンションの供給がピークを迎える時期と重なり、高い賃金を払わないと人が集まらない状況だったと言われています。
この「負の連鎖」は、三井住友建設の経営そのものを揺るがす問題となっています。では、会社の今後はどうなるのでしょうか?
三井住友建設の経営危機と今後の展望
この損失により、三井住友建設は度に80億円の赤字になる見通しです。
さらに会社の内部でも混乱が起きています。今年2月には社長が交代する騒動があり、大株主からの圧力も強まっているといわれています。
現在、工事は8割方進んでおり、の完成を目指しています。会社側は「これ以上の損失は出ない」と説明していますが、業界からは「本当にそうか」という懸念の声も上がっています。